矢口八虎は要領のいい高校二年生です。遊ぶだけ遊びながら成績は上位を保ち、友人ともうまくやっています。問題は、そのどれもが面白くないことです。
ある朝、渋谷の青い光を絵にしてみて、その絵を美術部の人たちに受け止められる経験をします。自分のしたことが誰かに伝わったという感覚を初めて得て、八虎は東京藝術大学油画科を目標に定めます。国内でいちばん入るのが難しい美術学部です。
この漫画が扱うのは才能ではなく訓練です。デッサンを何枚描けば伸びるのか、予備校にいくらかかるのか、なぜ親を説得しなければならないのか。それがそのまま本文になります。絵を描くことを趣味ではなく進路として扱うので、実技試験の場面が他の漫画の決勝戦の位置に置かれます。
周囲の人物もそれぞれの事情を抱えています。鮎川龍二は自己表現と家族の期待のあいだでぶつかり、高橋世田介は八虎より先を行きながら、その先行ゆえに苦しみます。勝負がつく場面では、勝った側も晴れない顔で描かれます。
作者は山口つばさ。2017年6月24日に講談社の月刊アフタヌーンで連載を開始し、現在も続いています。第13回マンガ大賞、第44回講談社漫画賞一般部門を受賞し、第24回手塚治虫文化賞にもノミネートされました。アニメーション制作はセブン・アークスで、2021年9月25日から全12話が配信されました。
美術を専攻しない読者にも引っかかる場所があります。好きなことを仕事にすると口に出したあと、実際に何を引き受けることになるのかを、この漫画は美化せずに見せます。



